「先輩、俺…」

どうした早乙女、思いつめた顔をして。

「俺、この戦争が終わったら…」

終わったら?

「田舎で待っている彼女に…」

ああ、あの彼女か。

「思い切って、言ってみようと思うんです」

何を?何を言うんだ?

トムとジェリーとトマトゼリーは似ているって」



早乙女上等兵二階級特進となった。


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炎のさだめ

「消防士になりたい」

なんという、なんという純粋な目で見るのだ。一点の曇りの無いまなざしというのはこういうことをいうのではないだろうか。例え動機が「バックドラフト」のDVDを見たからといっても、できそうもない夢を諦めさせるのはあまり良くないことだ。


私にはわからなかった。来月で白寿を迎える祖父をどう説得したらいいのか。




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電車でGO(復活編)

新幹線に乗っていると旅をしているような気分になる。
それが例え出張の帰りで自宅にもどる途中であっても。

中途半端な時間なので乗車率は20パーセントに満たないようで、座席はスカスカで静かで実に快適だ。おまけに東京駅で買った文庫本とサンドイッチとビールがある。

品川で停車すると私の座席の二列後ろに3人連れが座ったようだ。喋りながら乗車してきて喋りながら座りまだ喋っている。

まあ座席を移動するほどではないので私はウェイクフィールド一家の運命に没頭することにしたが、時折会話の内容が奇妙なことに気がついた。

どうやら彼らは社章、いわゆるスーツのボタンホールにつける会社のピンバッヂのようなものについて話をしているのだ。

興味をそそられて盗み聞きしてみることにすると、
・基本は丸い形
・平社員は全員は緑色
・管理職になると丸い形から1本突起が出る
・営業成績が優秀な管理職は色が赤になる

いやそれ、どんなオタク社長なんだ?

・部長は青、取締役は金、常務はプラチナ、専務は水晶
・社長はダイヤ

うーん、大丈夫か君らの会社。

「もしもし、もしもし?」

ハッと目が醒めると制服姿の男性に揺り起こされていたところだった。
どうやら、ラーマ3を読んでいる間に眠って変な夢を見ていたようだ。

「すいません、おやすみのところ。乗車券を拝見します」

そう言った車掌の社章を見忘れたのが残念だ。



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第8回雑文祭に参加しているのかどうかは、じゆうだー

その自転車のカギは、机の引出しの奥に忘れていたものだった。
娘を保育園に送り迎えするのに自転車を使っていたのだが、今はもう不要なものだ。

ドンパッチという金平糖みたいなキャラクターがついたキーホルダーを見ると、あの日のことを思い出す。


当時、自転車の荷台に子供用の座席を取り付けて二人乗りしていたのだが、それは道路交通法上は許されていたことだった。

下り坂を重力と慣性に任せて走っていると、いつも昔話だったか民話だったかを思い出す。赤ん坊を背負った農婦が肝試しか何かで地蔵のところへ行き何かをして(頭をどうかするのだったと思う)意気揚揚と仲間の元に返ってくると背負っていた赤ん坊の頭が無くなっていた、というちょっと怖い話だ。

後ろで子供が無言で居ると何だか怖くなってしまい、声をかけて安否を確認するのは、私が心配性なだけだったろうか。

いつもは用も無いのに声をかける私にも無邪気に返事をする娘であったが、その日は返事が無かった。長い下り坂なので振り返るとバランスを崩して転倒しかねない。いや、止まって振り返れば良いのだろうが、怖くてそれができなかった。
何度も娘の名前を呼びかけつつ、私の頭の中には首の無い地蔵のイメージが膨らみ続ける。後少しで坂が終わる、というところで私の背中にドンという鈍い衝撃と生暖かい感覚を覚えた。

慌てて自転車を止めて振り返ると、前に倒れこんできた娘はよだれをたらして眠っていた。
とっぴんぱらりのぷう。

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チャンス

「絶対数字は取れますって!!」

若い。若い社員はとんでもないことを平気で言い出すものだ。彼が出してきた企画の主旨は、幼い子がたった一人で初めてお使いをするのを複数のカメラで追跡するというものだ。子供だけに、大人の予想がつかない行動をするハプニングや、買い物先のお店の人との触れ合い、教えられたとおりに交通ルールをピシッと守るところ、もちろん魅力的だ。魅力的だが社会にはできることとできないことがあるということを教えてやらなければならない。それは、年老いて経験を経た私のような老兵の仕事だ。

「君の企画の素晴らしさはよく判っているよ」

「じゃ、じゃあ」

「いや、宮内庁の許可は下りないよ」

「そんなのやってみなけ…」

「お前クビ」



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ブルーマンデーとブルーマウンテンは似ている

「やあみんなっ!元気かいっ?ボクの名前はハッピーマン!
 今日はボクの誕生日だからハッピーマンデーさっ!」

乗車率300%の通勤電車の中で、ハッピーマンは死んだ。



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グが大きい

小さな山がそこにあった。

いや、山ではない。信じられないかもしれないがそれは人だった。確かにシルエットは頭らしきもの、両腕と両足が確認できたが、人間という概念をかるく踏み外して巨大だった。
見上げてみると巨人はその巨大なまなこから涙を流していた。視線の先を追ってみると、レストランの入り口のプレートが確認できた。

「No Smoking」

それ君のことじゃないから、とはコニシキには言えなかった。



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